ひととあやかしが共に暮らすことができる、最後の聖域。
四国、高知の山奥にある隠れ里。茂伸(ものべの)――

ものべの新しくできた「旅館あやかし」の仲居、大禿のちせは、遊郭育ち。
水揚げも済まないうちにあやかしになってしまった身ではありますが、にもかかわらずの絶品ともいうべきおもてなしの技と、お仕事ぬきのまごころとをもって、修羅場明けのあなたを大いにねぎらってくれます。
ぼさぼさのあなたのヒゲを剃る革砥とカミソリの音。
火鉢で炙る肉の音、つぼ焼きのサザエが踊る音。その殻に注ぐ酒の音。
そうして遊郭仕込のお座敷遊び――『五重塔』の、『投扇興』の、華やいだ音。
あなたの火照ったお耳を冷やす、ヘチマ水の音。

ちせの奏でるさまざまな音と、その絶品ともいえる耳かきは、あなたを穏やかな眠りに誘い――
そしてちせの寝物語は、あなたの知らぬ昔々の廓の様子を、静かに伝えてくれるでしょう。